福岡県久留米市の”まさあき耳鼻咽喉科と美容のクリニック”です。
当院では花粉症を含むアレルギー性鼻炎に対してボツリヌストキシン(ボトックス)治療を行っています。(自由診療になります)
毒素の鼻炎症状に対する効果については、1998年以来海外では多くの論文が発表されており、良好な経過が報告されています。鼻腔内ボツリヌス毒素投与は、鼻の粘膜の神経に作用することにより、鼻汁、鼻閉、くしゃみ、嗅覚障害など鼻炎症状を軽減し、効果が長く続く安全で効果的な治療法です
保険診療としては抗アレルギー薬の内服等があります。しかし難治性アレルギー性鼻炎患者では効果が十分でない場合や、眠気などの副作用によりなかなか服薬できない場合もあるでしょう。そういった場合、ボツリヌス毒素治療は有力な代替治療オプションの一つになります。
ボツリヌス毒素はボツリヌス菌によって生成される外毒素です。シナプス前神経終末からのアセチルコリンの放出を阻害することで、神経筋と神経腺の接合部における信号伝達を妨害します。表情しわの治療や、顔面神経麻痺後遺症に対する治療、多汗症に対する治療など多くの治療に使われています。
アレルギー性鼻炎に対するボツリヌス毒素の注射は、以下のメカニズムによって症状を軽減すると考えられています。
- 鼻粘膜の神経終末からのアセチルコリン放出の抑制
- 蝶形骨口蓋神経節からのアセチルコリン放出の阻害
- 鼻粘膜下腺のアポトーシスの開始
- 三叉神経および副交感神経終末からの神経ペプチド放出の阻害
当院では鼻腔内注射法をメインでおこなっています。一般的に多くの医院で花粉症に対するボツリヌストキシンとして、ボツリヌストキシンを浸したガーゼを挿入したり鼻腔内に点鼻する鼻腔内滴下法がされています。そういった治療法に比べて注射をするという侵襲はありますが、しっかりと効果があり、また効果時間が長く続くという特徴があります。副作用の面では注射による軽度の出血や痛みを感じる事があるほかには両者に違いはありません。(希望あれば当院でも鼻腔内滴下法をすることは可能です)
この記事の内容
- 施術方法
- 合併症と効果持続期間
- 鼻腔内注射と局所浸潤法(鼻腔内滴下、ガーゼパッキング法)との比較
- ボツリヌストキシンの投薬量について
- 抗ヒスタミン薬との比較
- ステロイド鼻腔内注射との比較
- ゾレアとの比較
1.施術方法
溶けるスポンジ(ジェルフォーム)を鼻腔内に敷き詰める方法も報告されていますが(1)、一般的には鼻腔内の鼻中隔や中鼻甲介、下鼻甲介にボツリヌストキシンを注射します。また非侵襲的な方法としてボツリヌストキシンを点鼻するだけの方法もありますが、注射は8~12週間効果が持続するのに対して点鼻では2週間程度しか効果が持続しません。
まずは鼻腔内を麻酔のついたガーゼでしっかりと鼻粘膜に麻酔を浸潤させた後(どうしても痛みが心配であれば、追加で笑気麻酔(吸入麻酔)も可能です)、注射をしていきます。10分ほど出血がないか経過観後、問題なければ終了となります。
2.合併症と効果持続期間
合併症として稀ですが、鼻の乾燥感や出血が報告されています。効果は個人差もありますが、通常8~12週間持続し、その間、鼻づまり、鼻漏、くしゃみ、嗅覚喪失を改善します。
3.鼻腔内注射と局所浸潤法(鼻腔内滴下、ガーゼパッキング法)との比較
ボツリヌストキシンによる鼻炎の治療として、主に注射による治療が多く報告されています。
一方、鼻内局所治療の報告もあり、メロセルを用いた治療(4)やジェルフォームを用いた治療(1)でも効果的であったという報告もあります。注射をしないため低侵襲な一方、鼻腔内注射と比べてボツリヌストキシンの量がより多く必要であり、また効果の持続時間も注射と比べて短いです。
メロセルとは以下に示すような治療材料であり、鼻腔内に挿入後水分を吸収することにより鼻腔内に充満するように広がります。文献では左右それぞれ20単位(両側40単位)のボツリヌストキシンを浸したメロセルを、30分程鼻内に留置されて治療されています。注射ではない分注射の痛みや出血はないですが、そもそもにメロセルを挿入されること自体が負担になるのではないかと思われます。
ジェルフォームを用いた治療では内視鏡で確認しながら、中鼻道に左右それぞれ40単位(両側80単位)のボツリヌストキシンを浸したジェルフォーム(スポンジのようなものです)を吸収されるまで留置しています。これは吸収されるまでにおよそ一か月かかります。この方法は侵襲は少ないですが、処置の難易度が高く、耳鼻咽喉科専門医以外には難しいでしょう。
日本では美容クリニックなど多くの医院で花粉症に対するボツリヌストキシンとして、鼻腔内に点鼻する方法やボツリヌストキシンを浸したガーゼを挿入する方法が取られているようです。必要な部位に必要なボツリヌストキシンの量を塗布することは困難であり、海外での報告ほどには効果を出せないでしょう。効果の持続期間も平均2週間程度です。
4.ボツリヌストキシンの投薬量について
ボツリヌストキシンの推奨投与量に関するコンセンサスは存在しません。アレルギー性鼻炎で使用される用量としては25~150 単位(両側で)の範囲内で報告があります。
下鼻甲介へのボツリヌストキシン注射において40単位と60単位での効果を比較した研究ではどちらも効果に違いがなかったという報告(5)やアボボツリヌストキシンA(ディスポート)では症状を抑える最低投与量は30単位であったとの報告もあります(6)。
またボツリヌストキシンの投与量は副作用の発現リスクには関連ありませんでした。
5.抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)との比較
ボツリヌストキシン注射とセチリジン(抗ヒスタミン薬)の内服を比較した文献があります。
ボツリヌストキシンとセチリジンは患者の症状とQOLの改善に同様の効果がありましたが、ボツリヌストキシンは1回しか注射されないため、薬のコンプライアンスもよいです。また、ボツリヌストキシンはセチリジンに比べて副作用の頻度が低いことが示されています。ボツリヌストキシン注射による鼻血は軽度で、局所圧迫で止血可能でした。眠気はセチリジンを投与された参加者の約50%に発生し、それに比べてボツリヌストキシン注射グループのコンプライアンスが優れていることが示されました。 ボツリヌストキシン の単回投与は、2 か月間の治療期間中のセチリジンの毎日の使用よりも高価に思えるかもしれませんが、副作用と抗ヒスタミン薬の長期使用は、セチリジン群の患者の障害と眠気による間接費用のコストが高く、経済的負担が大きくなります。(2)
またThorn らによるレビューでは、セチリジンやロラタジンなどの抗ヒスタミン薬で治療した患者の仕事の生産性が著しく低下していることが示されています。
6.ステロイド(トリアムシノロン)鼻腔内注射との比較
ボツリヌストキシン注射は、ステロイド注射よりも、持続期間と程度の点で症状緩和に優れていることが示されています。安全性の点ではを、小粒子のステロイドを鼻腔内に注射すると、可能性は極めて低い(0.003%~0.006%)ですが、血管塞栓症や失明を引き起こす可能性があります。ボツリヌストキシンの鼻腔内注射では、重篤な合併症は報告されていません。(3)
7.ゾレア(オマリズマブ(遺伝子組換え))との比較
ゾレア(オマリズマブ(遺伝子組換え))は、重症・最重症のスギ花粉症に対する保険適応の注射薬です。花粉シーズン中に2週間または4週間の間隔で投与します。
ゾレアはアレルギー反応のより上流を抑えるため、アレルギー反応を根本から抑えます。これによりくしゃみ、鼻汁、鼻づまりや、目のかゆみといったアレルギーのほぼすべての症状が改善します。
ゾレアは適応が厳密に決められており、施行前の血液検査は必須になります。
ゾレアは体重と血清総IgEによって細かく投与量が定められています。
ゾレアは12歳以上から投与できますが、成人で体重40Kg以上とすると一か月あたり6549円~48109円の薬価がかかります。その他に診察代、検査代、同時に内服が必要な抗ヒスタミン薬の薬価が必要になります。
References
(1)The Effect of Gelfoam Impregnated With Botulinum Toxin on Allergic Rhinitis
Vahid Zand, Mohammadhossein Baradaranfar, Mohammadhossein Dadgarnia, Mojtaba Meybodian, Sedighe Vaziribozorg, Mohammad Mandegari, Nasrin Behniafard, Amrollah Dehghani
Iran J Otorhinolaryngol. 2019 Jul;31(105):203-208.
(2)Comparing the effects of Botulinum Toxin-A and cetirizine on the treatment
of allergic rhinitis.
Hashemi SM, Okhovat A, Amini S, Pourghasemian M.
Allergol Int 2013;62(02):245–249. Doi:
10.2332/allergolint.12-OA-0510
(3)Comparison between botulinum toxin and steroid septal injection in the treatment of allergic rhinitis
Cheng-Chieh Huang, Kuan-Wei Chen, Chih-Wen Twu, Hung-Meng Huang, Hsin-Chien Hsu
Laryngoscope Investig Otolaryngol
. 2022 Jan 6;7(1):12-21. doi: 10.1002/lio2.726. eCollection 2022 Feb.
(4)Topical application v opical application versus intrersus intraturbinate injection of botulinum t aturbinate injection of botulinum toxin type A in the treatment of noninfectious chronic rhinosinusitis
Naslshah G. Kazem,Mohamed A. Elsaid ,Aya L. Hassan, Abdelrahman A. Abdelalim
Pan Arab Journal of Rhinology
Volume 12 Issue 1 Article 5
(5)Effect of botulinum toxin type A on nasal symptoms in patients with allergic rhinitis: a double-blind, placebo-controlled clinical trial
Murat Unal , Serhan Sevim, Okan Doğu, Yusuf Vayisoğlu, Arzu Kanik
Acta Otolaryngol. 2003 Dec;123(9):1060-3. doi: 10.1080/00016480310000755.
(6)The minimum effective dose of abobotulinum toxin A injection for allergic rhinitis: A dose‐escalation randomized controlled trial
Patorn Piromchai, Worakit Pornumnouy, Patchareeporn Saeseow, Seksun Chainansamit
Laryngoscope Investig Otolaryngol. 2021 Feb; 6(1): 6–12. Published online 2020 Dec 8. doi: 10.1002/lio2.499